白化を知らない子供たち。

クロワッサン

2024年07月13日 06:30

2024年 7月12日(金) 晴れ

南西の風 けっこう波あり 水温25度~29度

 先日砂地のポイントで砂底の小さな魚を観ていたら、そのすぐ先を2匹の大きな魚が悠然と通り過ぎていった。
 
 巨大なコバンザメだ。
 
 主を離れたコバンザメが能動的に泳いでいる様子はたまに見かけるけれど、サイズは過去最大級といっていい存在感だった。
 
 こんな大きなコバンザメをくっつけていたのだとしたら……
 
 …相当デカい魚に違いない。
 
 それから4日経ったこの日、同じポイントのほぼ同じ場所でオグロクロユリハゼのチビチビ集団たちを観ようとしていたときのこと。
 
 そのすぐ先を、1匹の巨大な魚がゆったりのんびり通り過ぎていった。
 
 ウシエイだ!(ホシエイかも)
 
 尾ビレが付け根から欠損していたのは、大きくなってから何かに襲われたからだろうか。
 
 過去に何度か遭遇したことがあるウシエイ(ホシエイかも)は、いずれの場合もけっこう深い砂底だったのだけど、今回は15メートルほどと極めて浅く明るいところだったうえに、個人史上最接近記録といっていい近さでその姿を拝むことができた。
 
 ああそれなのに…
 
 …画像記録はないのだった(涙)。
 
 巨大なウシエイ(ホシエイかも)が去ってから、ふと気がついた。
 
 4日前に出会った2匹の巨大コバンザメは、このウシエイ(ホシエイかも)にくっついていたのでは?
 
 リーフ際に戻ってくると、今日も生ぬるい水のおかげで、ちょっとした温泉に浸かっているかのよう。
 
 そんなリーフ際では、このところ今年生まれのチビチビチョウチョウウオ、略して豆チョウたちがチラホラ出現していて、珍しいところではミカドチョウの激チビの姿が相次いでいる。
 
 ただし豆チョウたちはサンゴの枝間に潜むから、スナップ写真的にホイホイと撮れるものではなく、そもそもその全身を拝むチャンスすら少ない。
 
 なのでシャッターボタンを押したところで、たいてい↓こういうことになる。
 

 たまの休暇で潜りに来ている方は、この豆チョウ1匹にすべてを注ぎこむことなどできないから、早々に諦めることが多いはず。
 
 でもワタシどもの場合はそういう縛りが無いので、たとえば100ほど余っている残タンクがあれば、それをすべて費やして30分1本勝負に取り組むことができる。
 
 その結果…
 

 吻端がわずかにサンゴにかぶってしまったものの、なんとか証拠写真にはなった。
 
 もう少し時間が経つと少々気を許してくれたのか、枝間が広めのところに姿を現すようになった。 
 

 今度は吻端もバッチリ……だけどおでこ(?)がかぶっちゃった。 
 
 激チビミカドチョウのすぐそばでは、ヤリカタギの激チビサイズがチョロチョロチョロチョロ動き回っていた。 
 
 今ではすっかり当たり前の存在になっているヤリカタギだから、どんな節穴ダイバーでもチビからオトナまで、1本のダイビングでいくらでも観ることができる。
 
 ただ、やはり豆チョウはおいそれとは写せない。
 
 ただでさえ狭いミドリイシの枝間だというのに、チョロチョロチョロチョロ動き回るものだから、これまたテキトーにシャッターを切ったところで…
 

 …泳いでいる最中のヒレ全閉じ状態、しかも体のどこかしらがサンゴに隠れてしまう。
 
 そんなチビターレでも、30分付き合っていれば気心も知れてきて、全身が見えるところで束の間静止してくれる場所がわかってくる。
 

 当初は傍でカメラを向けているワタシの存在を警戒し、枝間に潜んだままチョロチョロしていたものが、30分もそのまま観ていると、コイツはただそこにいるだけで危害を加えたりはしないということがわかってくるらしい。
 
 するとだんだん警戒心を解き始め、枝間の外にチラホラ姿を現し始める。
 
 チャンス!
 

 食住をサンゴ、特にミドリイシに依存しているヤリカタギなので、98年のサンゴの大規模白化によるサンゴ礁壊滅後には、チビチビの姿などまったく目にしなくなったものだった。
 
 生き残っていたオトナもやがて死んでいき、ひところはヤリカタギが超レアチョウチョウウオにすらなっていたのだ。
 
 それが白化後10年近く経ち、生まれ変わったサンゴたちが順調に育ち始めるとともに、ヤリカタギチビターレが復活。
 
 10年ぶりくらいにヤリカタギのチビターレを目にしたときは、テングカワハギが戻ってきたときと同じくらい感動ものだった。
 
 その昔「戦争を知らない子供たち」という歌があったけど、今現在の現役ダイバーの多くは、「(98年の)白化を知らない子供たち」なのだよなぁ…。
 
 その後も局所的に白化は起こっているけれど、局所ならサンゴ礁の復活は早いはず。
 
 でも98年の白化は世界規模で、沖縄地方も広範囲に被害を被ってしまったから、サンゴ礁が元の姿を取り戻すまで結局10年以上かかってしまった。 
 
 ここ10年の間にダイビングを始めた方には想像もできないだろうけど、ヤリカタギもテングカワハギも1匹も姿が見えない状態が何年も続く…ということが、実際にあったのだ。
 
 今年の高水温でホントにサンゴが大規模白化して壊滅してしまったら、ヤリカタギは再び超レアになってしまうかもしれない。
 
 今現在いつでも当たり前に観られるからといって、それはけっして永遠に続くわけではない、ということを肝に銘じておきましょう。

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