海で逢いたい。

クロワッサン

2025年03月04日 08:43

2025年 3月3日(月) 雨のち雪

そよ風 真冬の寒さ

 天気予報どおり、西から「冬」がやってきた。
 
 ウグイスすら鳴き始めていた昨日までの「春」は、いったん遠く銀河の彼方まで去ってしまったようだ。
 
 そして朝のうちは氷雨だったものが、午後には雪に。
 
 そのため、昨日までは↓このように「あとは桜が咲くのを待つばかり…」な春だった円照寺(元加治駅近くの古刹)も…
 

 …この日午後にはうっすらと雪化粧。
 


 順番が逆じゃないですか?と言いたくなるほどの激変だ。
 
 予報では数日前から週明け以降このようになることが告げられていたので、耐寒性能が著しく衰えている我々としては、おとなしくオタマサ実家でジッとしているのが吉…
 
 …と思っていたところへ、我々が現在オタマサ実家に滞在していることをご存知のとある方から、耳寄りな情報を頂戴した。
 
 毎年この季節に開催される「海で逢いたい」という水中写真サークル「海を見つめて」主催の写真展が、先月28日から今月5日まで開催されているというのだ。
 
 今年で28回目になる息の長い写真展なんだけど、開催地はもちろん文化発祥の中心地東京で(過去に神戸で開催されたこともある)、沖縄に暮らす我々からすれば、遥か遠い異国の話といっても過言ではなかった。
 
 なので今回そのとある方からご案内をいただいた際も、東京かぁ、遠いなぁ…とうっかり異国モードになりかけたのだけど、あれ?
 
 埼玉にいるんじゃん、我々!
 
 しかも毎年会場になっている大崎のO美術館は、駅から回廊で繋がっている建物の中にあり、途中半屋外ゾーンに身をさらすことになるとはいえ屋根に覆われているから、なんとか元加治駅までたどり着きさえすれば、雨にさらされることなくほとんどインドアで過ごせるっぽい。
 
 土曜日夕方に情報をお寄せくださったとある方によると、まだポカポカ陽気の日曜日には、サークル「海を見つめて」の顧問であるかの大御所海中写真家もお見えになる予定という。
 
 久しぶりにお会いしたいのはやまやまながら、2日日曜日といえば東京マラソン、周辺も会場も多くの人でごった返していることだろう。
 
 今のところ世を憚っている我々としては、そういう賑わいのただなかに身を置くわけにもいかない。
 
 というわけで、ポカポカ陽気の外出は諦め、この日午後、厳寒のなか背を丸めて大崎を目指すことにしたのだった。
 
 というわけで、人生初の大崎駅下車。
 
 回廊を渡ってしまうと、その先いったいどこへ行ったらいいのか途方に暮れかけるところ、ちゃんと行き方の案内が出ていたので、そのとおりエスカレーターで下に降りてから建物に入った。
 
 そして魅惑的な飲食店が並ぶフロアの奥に、O美術館があった。
 

 会場には、ここひと月半ほどの間に忘れかけていた世界が広がっていた。
 
 写真展のタイトルは「海で逢いたい」だけど、こういうステキな作品群を拝見すると、まったくもって「海で潜りたい!」。
 
 回遊魚グングン系のワイドの写真、巨大なザトウクジラが完璧にフレームに収まっている作品など、水納島で遭遇することなどまずないシーンに思わず目を奪われながら、精美かつ精緻ないかにも変態社会人的作品にもついつい惹かれる。
 
 とりわけ衝撃的だったのは、カエルアンコウの一種が抱卵しているところを捉えた作品。
 
 日本にいるカエルアンコウ類も同様なのかどうかは不明ながら、海外のカエルアンコウの一種では、オスが体をくねらせつつ卵を大事そうに守り続けるそうなのだ。
 
 知らなきゃそれが卵だなんて気づかないかもしれない大粒の卵を目にするのも初めてのことながら、(たぶん)大きなカエルアンコウがそれを大事に守っているだなんて…。
 
 世間ではとっくの昔にジョーシキになっているのかもしれないけれど、文化果つる僻地に住まう我々にとっては、昨年のオオバロニアの中に住まうウミウシなみのクリーチャーショックである。
 
 ん?
 
 撮影者のお名前を見れば、なんとなんと、何度も水納島にお越しくださっているコスゲエンジェルスの方ではないか。
 
 すごいシーンをご覧になっているのだなぁ…。
  
 …と、感心しきりで我々が鑑賞していた作品に対し、ヒトコトお寄せになる方がいた。
 
 「もう少し引いた絵だったら、このカエルアンコウがどういうところで卵を保護しているのかといった『環境』もわかるのにねぇ」
 
 辛口批評でおなじみのその方とは…
 

 目で眺めるのは誰にでもできても、その群れを美しく撮るのがたいそう難しいキレンジャーフエダイ系。
 
 そんなベンガルフエダイがものの見事にアーチを描いて群れているご自身の作品の前にいらっしゃるのは、大御所写真家大方洋二さん!
 
 過去に何度か触れたことがあるからご存知の方もいらっしゃるとは思うけど、その昔熱帯魚の雑誌の編集者(小間使いともいう)をしていた当時、個人的にその雑誌内のオアシス的連載が、大方さんの「海の生態学」というコーナーだった。
 
 毎月その原稿をご自宅まで受け取りに伺うという、ワタシにとってこれ以上ない夢のような時間が無ければ、水納島に越すことになる前にシゴトを辞めていたかもしれない。
 
 原稿をただ受け取るだけなら、少々の確認だけであっという間に終わるところながら、まるで伊佐坂センセイの原稿を受け取りに来るノリスケなみの図々しさで、著者ご本人が淹れてくださるコーヒーをいただきつつずーっと海と魚の話。
 
 それを夢の時間と言わずになんと言おう。
 
 3年ほどそういうお付き合いをさせていただいたこともあって、我々が水納島に越すことになった際には、浅草で送別会まで開いてくださり(参加者は大方さんと我々二人だけだけど…)、たいそう感激したものだった。
 
 我々が水納島に越してからも数年は毎年のように遊びに来てくださっていたものの、近年は年賀状のやりとりくらいになっていたから直接お会いする機会はなかなかなかった。
 
 それが今回、このタイミングでオタマサ実家にいたおかげで、久しぶりの再会。
 
 それもこれも、前述の「とある方」が、どうやら我々は月曜日の午後に来るようだ、ということをそっと大方さんに伝えてくださり、「だったら会いたいなぁ…」ということになり、真冬に戻ってしまったこの日に、わざわざ午後に合わせて会場までお越しくださったからにほかならない。
 
 ヒデキ感激!
 
 かの有名なアマミホシゾラフグの発見者でありミステリーサークルのオーソリティでもあるご本人が現地で撮影されたムービー、それを会場で視聴しながら、ご本人からアマミホシゾラフグにまつわるエピソードをうかがえるゼータクなひとときといったら。
 
 往時の隅田川のほとりで過ごしていたオアシスタイムを、久しぶりに堪能することができたのだった。
 
 先年には大病を患われ、その後どうされているか気掛かりではあったのだけど、相変わらずお元気な様子に安堵しつつ、この様子ならきっと大方ヨーダさんになれるくらいご長寿間違いなしであることを確信した次第。
 
 いまさら言うまでもないだろうけれど、件の「とある方」というのは、ほかでもない巨匠コスゲさんそのヒトである。
 

 撮影地として有名スポットが星の数ほど並ぶ作品群のなかで、キラリと光る「撮影地 水納島」。
 
 その作品は、オニダルマオコゼのアゴにイシガキカエルウオがチョコンと乗っているシーンだ。
 
 ご本人によるキャプションには、
 
 「ハラハラとドキドキとワクワクが入り混じりながら撮っていました」
 
 とあったけれど、「ワクワク」が98パーセント以上を占めていたであろうと我々は確信しているのであった。
 
 あ、ちなみにワタシが写っている写真はどちらも、会場にいらっしゃったバリバリ大活躍中の水中写真家粕谷徹氏のお言葉に甘えて撮っていただいたもので、なんとも畏れ多いことをしていただいたと今さらながら大変恐縮しておりますです、ハイ。
 
 というわけで、一気に真冬に戻ってしまったけれど、僻地にいたら味わえないホットな時間を過ごせたO美術館なのでした。
 
 写真展「海で逢いたい」は5日午後3時まで開催中ですので、お時間のある方は是非!

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