「その後」のインリーフ。

クロワッサン

2024年11月12日 07:41

2024年 11月11日(月) おおむね晴れ

北の風 やや波あり 水温27度

 ポッキーの日の今日は、久しぶりにノーストレスの好天に恵まれた。
 
 太陽は暖かく…というか日差しの下に居続けたら暑いほどで、それでもTシャツ姿で日陰に入ると肌寒く感じるくらい。
 
 この時期ならではの、陰陽の寒暖差を味わえた。
 
 まぁそれにしても土日の激雨もたいがい常識はずれだったけれど、今現在の南海上の台風の状況も、20年前だったら何かの間違いかと思うほどになっている。
 
 気象庁発表の台風進路情報を出しているサイトを見ると…
 

 …台風が同時に4つも並んでいるのだ。
 
 それらの多くは沖縄を含めた日本とまったく関係がない進路になりそうとはいえ、11月も半ばになって、台風が仲良く4つも存在しているなんて…
 
 狂っている。
 
 そのうちのひとつがまたアヤシイ進路予想になっていて、ウソつきウィンディあたりはショボショボになりながらも沖縄本島付近まで来てしまう予想を出しているほど。
 
 土日の大雨をかろうじて持ちこたえているだけかもしれない各所に再び激しい雨が降ったら、いったいどういうことになるんだろう?
 
 こういうことがどんどん当たり前になっていきながら、その都度「記録的」な事態に直面することになるということは、もう誰もがうすうす覚悟していることではある。
 
 であれば、いまだ断水解決の目途すら立っていない大宜味村も、歪なバブルの狂騒に乗っかって「結の浜」の埋め立て地の先にとてつもない規模の人工ビーチを造ろうなんてことを考える前に、人々の暮らしの基礎の基礎の基礎である浄水場を、狂った気象で何があっても無事でいられるようなモノに造り替えるよう、同規模の予算で考えた方がいいんじゃないですかね。
 
 とにかくそんなわけで、しばらく好天が続くはずだったこの先も日を追うごとに冴えない予報が並ぶようになり、しかも台風モドキが来るかも…となると、おちおちボートを海に戻していられない。
 
 ああ、せっかくの好天なのになぁ…。
 
 そこで、この日午後から潜ることにした。
 
 目指すはオホンナ海岸、カモメ岩の浜だ。
 
 実に3週間ぶりのダイビング、しかもビーチエントリーとなると、インリーフ用の小さなタイプとはいえタンクを背負って坂道を上り下りできるだろうか…
 
 …という体力的モンダイもさることながら、今年の白化でリーフ内のサンゴたちはことごとく壊滅しているんじゃなかろうか。
 
 となると、せっかくエントリーしても一望死の世界なのかなぁ…。
 
 それならそれで、その死にっぷりをちゃんと見ておかねば。
 
 波打ち際からエントリーして海中に没すると、いきなり目の前を魚群が横切っていった。
 
 ツムブリの若魚30匹ほどの群れだ。
 
 波打ち際から5メートルも離れていないこんなところでツムブリ?
 
 一瞬ボラかと思ったけど、レインボーランナーという英名にしおうその流線型の体は、紛れもなくツムブリ。
 
 サンゴが壊滅して、リーフの中の様相が変わったからだろうか。
 
 ところが。
 
 壊滅必至と思っていたサンゴたちは、元気そのもの!
 

 これはエントリーしてすぐのところに広がる群落で、真冬には最も冷たい水が淀むゾーンでもあるために、昨冬の激冷え込みのときには上部がかなり傷めつけられていた。
 
 冬に被害に遭っていたその部分がすっかりといっていいくらいに回復していて、白化被害の名残りも何もない。
 
 最もバッドコンディションのこの場所でもこんなに元気なくらいだから、その先も見渡すかぎりどこもかしこもみんな元気なままだ。
 
 ただしそれはあくまでもこの種類のサンゴと、一部の塊状サンゴにかぎってのことで、波打ち際に近いところでもポツポツ観られていたミドリイシ類の姿はどこにもなく、ソフトコーラルはおおむね↓こういう状態に成り果てていた。
 

 白化して弱った各種イソギンチャクと同じく、すっかり白くなって縮んでしまっている状態。
 
 本来なら体積的にもっと膨らんでいて、誇らしげにプワプワしているはずの彼らなのに、どこもかしこもこういう有様になっている。
 
 なぜだかひとつの岩に繁りまくり、ソフトコーラルの山になっていたところも、すっかり縮んでしまって、きのこの山ホワイトチョコバージョンになっていた。
 

 元気であれば、岩肌がまったく見えなくなるくらいのボリュームなのになぁ…。
 
 ミドリイシ類やハナヤサイサンゴ類といった、リーフ際でお馴染みのサンゴたちはことごとく姿を消して…というか残骸だけになっていて、ソフトコーラル類もほぼほぼ青息吐息になっているのに対し、もともとリーフ内を主たる暮らしの場にしている先ほどの枝状サンゴやハマサンゴ類は、まったくといっていいほど白化の被害が見受けられない。
 
 しかもこの枝状のサンゴは折れて海底に落ちたところからでもグングン育ってその場に定着するほど成長速度が速いから、ほんの少し前はポツポツ程度に点在していた小さな群落がそれぞれ広がることによってすべて繋がり、広大なサンゴ群落を作ってさえいた。
 

 これらのサンゴたちはもともと平時でもリーフ内の高水温にさらされているから、高水温には滅法強いということなのだろう。
 
 高水温には強くとも、波穏やかな環境に適応しているだけに、ストロング台風の波濤では物理的に傷めつけられる。
 
 台風時の怒涛の波濤によってそこらじゅうの死サンゴ岩などが転がり、それによっていたるところをバキバキに破壊されるという被害のほうが大きいのだけれど、なにしろ成長が速いからそういった傷もすぐに癒えてしまう。
 
 なんて逞しいんだ、このサンゴ…。
 
 水納島のリーフ内ではお馴染みのサンゴだというのに、昔からその名を知らぬ我々。
 
 今さら尋ねるのもお恥ずかしいことながら、ユビエダハマサンゴがしょぼくれて萎びたようなこの地味地味ジミーなサンゴ、なんて名前でしたっけ?
 
 さてさて、そんな逞しいサンゴが元気いっぱいの様子を見て、エントリー早々にテンション高めにリーフ内をウロウロしてみると、さすがに11月にもなると豆チョウたちも育っていて、今日出会った中で最小サイズのアケボノチョウでさえ、3センチほどになっていた。
 
 なので人生最小級の出会いは見込めなかったものの、種類的に「おっ!」となったのはこちら。
 

 ニセフウライチョウ@4センチほど。
 
 以前は個人的にかなりレアだったニセフウライチョウのチビターレも、近年は遭遇頻度が増している。
 
 それにつれて、リーフエッジ付近で出会うオトナないし若魚の姿も、近年けっこう増えている気がする。
 
 豆チョウたちとともにお馴染みのヒレナガハギのチビも、わりと育っているものが目立つ。
 

 これで上下8センチくらい。
 
 もっと小さなチビターレの姿もポツポツ見られた。
 

 たまにリーフエッジで見かけることはあれど、ヒレナガハギのチビチビといえばやはりインリーフ。
 
 でも同じインリーフでも、サンゴ群落から離れた波打ち際にほど近いところで苦労を余儀なくされながら暮らしているチビターレは…
 

 …背ビレ尻ビレがボロボロ。
 
 咄嗟の際に難を逃れる場所がないため、気の強い他の魚たちにやられ放題なのだろう。
 
 これ一時をもってしても、元気なサンゴ群落がこれらチビターレたちにとってどれほど大事な存在かということがよくわかるというもの。
 
 一方、こういった枝状サンゴではなく、塊状に育つハマサンゴ類が欠かせないチビたちもいる。
 
 そのひとつが、インリーフの(個人的)スター、サザナミヤッコだ。
 

 この日出会ったこのチビはもう10センチほどにまで育っていて、さざ波模様の合間にうっすらとオトナの色味が出始めている。
 
 彼らは身の危険を感じていないときは、サンゴ群落の上を悠然と泳いでいたりすることもあるけれど、ひとたび「やべ!」と思ったら、すぐに岩穴に逃げ込む。
 
 このインリーフ環境でその緊急避難場所を提供してくれているのが、塊状にグングン成長していくコブハマサンゴたちだ。
 
 彼らはたとえ死んでも岩陰だけは残してくれるし、生きていてもその下部には上の写真の左奥のような空隙がたくさんある。
 
 暗がりに逃げ込んで難を逃れるサザナミヤッコのような魚たちにとって、コブハマサンゴもまた欠かせない存在なのだった。
 
 さてさて、その他いろいろチビチビを愛でていたこの日、最大のヒット賞はというと、ほかでもないこの方。
 

 これが誰だかすぐにわかりましたね?
 
 そう、ゴマモンガラのチビちゃん。
 
 これまでも3センチほどのチビターレには何度か遭遇しているけれど、8センチくらいの、チビターレではないけれどオトナ模様にもなっていないゴマモンガラに会うのは初めてのこと。
 
 いわば個人的ミッシングリンクが繋がる日を迎えたのだ。
 
 思わず「ウヒョーッ!」となってカメラを向けていたら、ゴマちゃんもまた…
 

 …「オヒョーッ!」となった。
 
 そうそう、その第1背ビレピンコ立ちの姿を、横からも撮らせてくれないかなぁ…。
 
 すると…。
 

 ゴマちゃんもお利口さんである。
 
 実はこの日、もう1個体ほぼ同サイズのゴマちゃんがいた。
 
 今まで一度として遭遇したことがなかったのに、一度に2個体に会えるなんて。
 
 なるほど、夏場はせいぜい3センチほどのチビターレだけど、この時期になるとこれくらいに育っているってことか…。
 
 そろそろ岸に近づき始めた頃、ふと思い立ち、カクレクマノミの生存確認をしてみることにした。
 
 ハタゴイソギンチャクに暮らしているカクレクマノミは、波打ち際に近いところでちょくちょく目にするのだけれど、そのハタゴイソギンチャクの場所を何度潜っても覚えられない…
 
 …と嘆いていたところ、場所を覚えられないのではなく、ハタゴイソギンチャクが同じ場所に居てくれないだけであることがその後判明した。
 
 イソギンチャクもまた、状況に応じて移動可能なのである。
 
 そのため間を空けて通っていると、毎回違うところで観られるハタゴイソギンチャク、はたして白化を乗り越えているだろうか。
 
 乗り越えていた。
 

 色味的に若干白化の名残りがありはするものの、ボリューム的には健全そのもの。
 
 2匹しか姿は見えなかったけれど、カクレクマノミたちも安心して暮らせているようだ。
 

 覚悟していたほどの被害はなく、むしろ適温となって魚たちはみな元気に過ごしているように見えたインリーフ。
 
 でもその陰で、ひっそりと未来を憂いている者たちの姿もあった。
 

 普段の暮らしにミドリイシ類のサンゴが欠かせない、テングカワハギたちである。
 
 この日もポツポツ姿を見かけたけれど、リーフ内でもミドリイシがそこかしこで育っていた白化前に比べれば、その数は激減といっていい。
 
 ポリプ食の彼らのこと、このサンゴがミドリイシ類の代替食になりうるのかどうかは不明ながら、こんなに群落が広がっているにもかかわらずテングカワハギは激減しているところをみると、やはりリーフ内のミドリイシ壊滅は相当な痛手になっているのだろう。
 
 ゲップが出るほどいくらでもテングカワハギが観られた時代は、十数年でひとまず終了となりそうだ。
 
 前回は再びたくさん観られるようになるまで十数年かかったけれど、今回ははたして?
 
 この十数年、観られるうちにテングカワハギをたっぷり観ておいたみなさんは、なにげに果報者でございます。 

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