2019年06月14日

大一畳半物語。

2019年 6月13日(木) 曇り夕方から雨

東の風 やや波あり 水温25度~26度
 
 水納島に日帰りでやってくる各業者さんの話を聞くと、どこもスタッフ不足で大変らしい。
 
 人口減少に伴う人材不足が世間で騒がれ始めて久しいけれど、人が集まる都会に比べると、地方はより深刻さの度合いが大きい。
 
 沖縄本島内を縦横に走る路線バスも、このたび運転手不足に伴い運行本数を減らすことにしたそうだ。
 
 その運転手不足の背後には、観光バス需要が極端に高まったために「売れ筋」に運転手を回しているから、という営業上の裏事情もあるにせよ、やれ高齢者の危険運転だ、免許返納だという世の中になっているというのに、公共交通機関は運行数減だなんて。
 
 戦後から一心不乱に発展してきた日本の社会は、静かにしかし着実に、崩壊の道を歩んでいるに違いない。 
 
 さて、今日は朝から芳しくない天気予報だったけれど、なんとか2ダイブを終えるまでは持ちこたえてくれた。
 
 前日同様ゲストはIKAMAMAさんオンリーなので、我々は午前と午後の交代でご案内。
 
 すなわち、1本はカメラを携えて潜ることができる。
 
 冬の間からいないいないと騒いでいたノコギリハギは、相変わらずオトナの姿はほとんど見られないものの、昨シーズンはチビチビだったであろう若い個体がポツポツ目につくようになっている。
 
 年齢的にはそろそろパートナーと出会い、周囲にアツアツムード(死語?)をまき散らしながらペアでウロウロし始めそうな時期だ。
 
 が。
 
 あいにく相手がいない。
 
 この日見かけたとある砂地の根にいるノコギリハギヤングボーイは、禁断の恋の道を歩んでいた。
 
 種類的にはどちらもごく普通のふたりは、ごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしました。

 でも、ただひとつ違っていたのは、奥様は…
 
大一畳半物語。

 …フグだったのです。
 
 「奥さまは魔女」のナレーションを借りつつも、どっちがオスなのか、そもそも2匹は雌雄なのかは不明だけど。
 
 シマキンチャクフグとノコギリハギのそっくり度というのは、擬態という意味も含みながらけっこう知られている。
 
 え?
 
 どっちがカワハギでどっちがフグだかわからない?
 
 えー、シマキンチャクフグはこんな感じ。
 
大一畳半物語。

 一方ノコギリハギは、こんな感じ。
 
大一畳半物語。

 もう違いはわかりましたね?
 
 え?わからない?
 
 お逝きなさい。
 
 この両者が一緒にいる写真をネタ的に是非撮りたいと長年願いつつ、なかなかそういう偶然には恵まれない。
 
 ところが最初の写真は、まさにその願ってもない「偶然」!
 
 …に見えるでしょ。
 
 でもこれはけっして偶然ではない。
 
 この2人、サマンサとダーリンのように、ホントにペアになっているのだ。
 
 上の写真がたまたま偶然2匹が交差したのではない証拠に、この後も2匹はずっと……
 
大一畳半物語。

 ラブラブ。
 
大一畳半物語。

 ラブラブ。
 
大一畳半物語。

 ラブラブ。
 
 エサを探すときも……
 
大一畳半物語。

 やっぱりラブラブ。
 
 当店人気商品のひとつ、Factory TEN製「消しゴムハンコ」のこの作品を地で行く2人なのである。
 
大一畳半物語。

 オトナのノコギリハギは、砂地のポイントだと本来リーフ際あたりで観られるのがフツーなのだけど、この子はおそらく行きがかり上チビターレ時代をこの根で過ごすことになり、そのままここで暮らしているのだろう。
 
 シマキンチャクフグはオトナになってからもこういう場所にもフツーにおり、実際この根には他にもシマキンチャクフグがいる。
 
 この根にて他に選択の余地が無かったのかもしれないノコギリハギとは違い、シマキンチャクフグはたとえ先住者のペアに邪魔にされていたとしても、まだまだこの先いくらでも同種との出会いのチャンスはあるだろうに。
 
 それでもラブラブぶりは徹底していて、どちらか一方が根から離れて砂地の上を泳いでいると、すぐについていくもう一方。
 
 砂底の生き物に興味があるのはノコギリハギのようで、根の周囲にいるコガネキュウセンがエサ探しをしていると、おこぼれに与かろうとちゃっかりそばに寄り添っている。
 
大一畳半物語。

 根のきわあたりでは、ゴカイ類の卵らしきものをつついてもいた。
 
大一畳半物語。

 そういうときにはシマキンチャクフグは遠目に優し気に見守っていて、ノコギリハギの用が済むとまた一緒に泳ぐ。
 
 その様子を撮ろうとお邪魔すると、2匹ともカメラに向かってあからさまに敵意を表し、逃げるどころかレンズに向かってくるほどだ。
 
 そんな熱愛カップル(死語?)のおかげで、かねてからの念願だった、「そっくりさん同士のツーショット」を、偶然に頼らず撮ることができたのだった。
 
 ところで。
 
 この根にはイソマグロ御用達のホンソメワケベラがいる。
 
 普段よく目にするホンソメワケベラに比べ相当でっかいオスメスがおり、その施術がちょうどよいのか、イソマグロやサバヒーなど大型の回遊魚系がわざわざ彼らのもとへやってくるのだ。
 
 残念ながら超巨大ホンソメオスは天寿を全うしたのか、この日はもう姿が見当たらなかったけれど、昨年までメスだった新オスが(彼らは状況に応じメスからオスへ性転換します)、今日もまたイソマグロのケアをしていた。
 
大一畳半物語。

 ホンソメワケベラに身を委ねているイソマグロは、普段の威風堂々たる貫禄はどこへやら、ダラ~ンとあられもない姿になってしまう。
 
大一畳半物語。

 ホンソメワケベラが施術にとりかかると、だんだん縦向きになってくるのが笑える(3度くらいチャンスが訪れたにもかかわらず、結局ちゃんと撮れなかった…)。
 
 超巨大オスはいなくなってしまったけれど、二代目オスが小さなメスたちとともに頑張っているから、イソマグロ御用達の看板は今もなお健在だ。
 
 そんなホンソメワケベラが頑張っているこの根に、こういう子もいた。
 
大一畳半物語。

 全部カタカナで書くとブログサイト管理上のNGワードが含まれるため、フルネームだと拙日記上では平仮名を混ぜなきゃならないニセくろスジギンポ
 
 これまたそっくりさんネタで有名な魚だ。
 
 そっくりな相手はもちろんホンソメワケベラ。
 オトナだけではなく、幼魚の時は幼魚に似せて、写真のように若魚の時は若魚に似せる凝りよう。
 
 ただ、そのそっくりぶりが、ときとして本人に不利に作用することもあるらしい。
 
 というのも、何をするでもなく楽し気に泳いでいたこのニセクロが、突如巨大ホンソメオスにしばき倒される勢いで攻撃されたのである。
 
 ホンソメワケベラは個体数の加減にもよるけど基本的にハレムを維持するベラなので、自分の縄張り内に管理下にない他のホンソメワケベラがいると、容赦なく排他的行動をとる。
 
 なにもハレムの邪魔をするつもりなどまったくないニセクロながら、その場のボスに新参者認定されてしまってはひとたまりもない。
 
 なのでその場はともかく巣穴に逃げ込み、難を逃れるニセクロ。
 
大一畳半物語。

 心なしかゼェゼェしているように見えた。
 
 だからといってこのままずっと穴に入ったままいるわけにもいかないので、やがて穴から外に出てくる。
 
 でもその周りではホンソメワケベラが、根を縦横に行き来しつつ忙しげに営業している。
 
 あッ、またホンソメワケベラが近づいてきた!!
 
 するとニセクロ君、咄嗟にヒレを全開にし、「クリーニングしてください!!」のおねだりポーズ。
 
大一畳半物語。

 あ、また来たッ!!
 
大一畳半物語。

 すかさずおねだりのポーズ。
 
 身を委ねてくる相手には条件反射的にサービス業従事者になるホンソメワケベラは、接近してきた理由も忘れ、予約客のリストに入れてその場を去っていく。
 
 おっと、また来たぞッ!!
 
大一畳半物語。

 全身で「ただクリーニングをしてもらいたいだけなんです…」をアピールするニセクロ。
 
 この時接近してきていたのはいずれも巨大オスではなくその配下のメスたちだから、さほど攻撃されるわけでもないはずなのに、一度怖い目に遭ってしまってからは、条件反射になっているらしい。 
 
 本家に目くじらを立てられてしまったニセクロ君の処世術を見た。
 
 というわけで、ノコギリハギの禁断の恋やらイソマグロのクリーニングやらニセくろスジギンポの処世術やらを観ているうちに、なんてことだ、この根で50分近くも過ごしてしまった…。
 
 畳2畳にも満たない小さな小さな根にいただけで、なんだかとっても楽しいダイビングになったのだった。


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Posted by クロワッサン at 07:47│Comments(0)水納島の海
 
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