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2019年12月07日

新一本サンゴ物語2019。

2019年 12月6日(金) 雨

北東の風 時化模様
 
 引き続き連絡船は全便欠航。
 
 なにしろ週間天気予報上でこの日は「暴風雨」となっているくらいだから、完全無欠の大時化だ。
 
 大陸の高気圧がもたらす冬の季節風といえば、昔はよく晴れていたものだった。
 
 それが近年はこの季節になっても南から湿った暖かな空気が入り込んでくるからか、冬の季節風が前線とセットになってしまうことが多い。
 
 おかげで1日中雨。
 
 幸いにして北東の風だから我が家には強烈な風が直接吹き付けることはないとはいえ、ゴーゴー唸る風とザーザー降り続ける雨だなんて、ほとんど台風と変わらない。
 
 ホント、船を上架させておいてよかった……。
 
 ま、雨降りでも強風が吹いていても引き続き大掃除はできる。
 
 従来は季節風の欠航といってもせいぜい2日間くらいだから、その間に終わらせようと頑張らなければならなかったけど、今週など1日と4日、そして5日の半日だけと、7日間のうち2日半しか連絡船が運航していないから、掃除をする時間はたっぷりある。
 
 少しずつ掃除を進めても、余裕で終わる。
 
 今月このままの調子でいけば、来年の分まで掃除できてしまいそうだ……。
 
 さて。
 
 それくらいたっぷり時間があるものだから、この機会に新一本サンゴの成長をおさらいしてみよう。
 
 2013年までは過去に紹介しているから重複するけれど、ひとまとめのほうがわかりやすいから気にしないことにする。
 
 98年の世界的大規模なサンゴの白化現象により、水納島のリーフからリーフ際にかけてのミドリイシ類は壊滅してしまった、というのはこれまでに何度も紹介してきた。
 
 でもある程度水深があると生き残ったものもいて、当時砂底のオアシス的存在だった旧一本サンゴも、なんとか白化を乗り越えたサンゴのひとつだった(白くなりかけはした)。
 
 ところがその後、サンゴ壊滅によりエサ不足になったオニヒトデたちが大挙して深い海底を彷徨うようになり、そのうちの1匹がついに旧一本サンゴに到達、瞬く間に食い尽くしてしまった。
 
 多くのゲストの目を楽しませてくれた旧一本サンゴ。
 
 これに代わるサンゴが、どこかに育たないだろうか。
 
 やがてリーフの上に手のひらくらいのサンゴが目立つようになってくるのと時を同じくして、それまでポツンとあるだけだった岩に、いつしかミドリイシが成長し始めていた。
 
新一本サンゴ物語2019。

 これが2007年9月の姿。
 
 まだ直径30センチあるかどうかというサイズで、実は同じ岩にもうひとつミドリイシがついていたから、ホントはまだ「一本」サンゴではない。
 
 それでもとりあえず、この年から「ポスト一本サンゴです!」とゲストにときおりご案内していたのだけれど、まぁ当然ながら、ほとんどの方が  「…ふ~ん。」  的な反応しか示さなかった。
 
 ワタシ自身も、まぁどうせ1、2年したらオニヒトデにやられてしまうだろうくらいになかば諦観していた。
 
 ところが……。
 
 翌2008年9月、健在。
 
新一本サンゴ物語2019。

 たった1年でけっこう育った。
 
 一本サンゴに見えるように撮ってはいるけれど、実はもう1本も健在だ(奥側の陰になっているサンゴ)。
 
新一本サンゴ物語2019。

 サンゴは日光があってなんぼの生き物だから、すでに両者の間では生存をかけた日照権の奪い合いが始まっている。
 
 これから1年後の2009年9月には……
 
新一本サンゴ物語2019。

 けっこうそれっぽくなってきた。
 
 この年は、もう少し角度を低くして眺めると……
 
新一本サンゴ物語2019。

 ハートサンゴ♪
 
 ちなみに横から眺めると、依然として……
 
新一本サンゴ物語2019。

 二本サンゴ。
 
 これをもう少し引いて眺めてみると……
 
新一本サンゴ物語2019。

 冴えない色味の写真ながら、注目すべきは右端の少し離れたところにある岩。
 
 当時は「一本サンゴ」として観るには邪魔だったから、なるべく写りこまないように撮っていたのだけれど…。
 
 さて、それから1年経った2010年9月には……

新一本サンゴ物語2019。

 1年ごとの成長速度に加速度がついた気がする。
 
 この頃になると、「新一本サンゴです」とご案内すれば、ゲストの方々もちゃんと言葉どおり受け止めてくださるようになってきていた。
 
 2011年7月になると…
 
新一本サンゴ物語2019。

 なんで同じ9月じゃないんだ、と理系の方は思われるだろうけれど、夏の盛りに写真など撮っている間がなかなかないからそれまで9月だったのであって、同年同月比を撮ろうとしていたわけではないので悪しからず。
 
 この年はどういうわけか7月21日に呑気に写真など撮っているけれど、まさかその2週間後に台風で旧我が家の屋根が吹き飛ぶとは、神ならぬ身の知る由もないことなのだった。
 
 ちなみにこの時もまだ……
 
新一本サンゴ物語2019。

 2本目は健在。
 
 そして2012年7月には……
 
新一本サンゴ物語2019。

 旧一本サンゴに比べると、同じミドリイシ類でも1本1本の枝の長さが短いタイプなので、サンゴの枝間のスペース、すなわち小魚たちの居住空間が小さいために、住み着いている小魚が基本的に少ない新一本サンゴながら、さすがに初夏から盛夏にかけては、一時的にスカテンやキンセンイシモチなどのチビでにぎわう。
 
 この年はどういうわけかシロブチハタがこの場のボス気取りになって住み着いていて、サンゴを撮ろうとカメラを向けてもレンズ前に立ちはだかるくらいだったので、彼を主役にして撮った写真がある。
 
新一本サンゴ物語2019。

 おかげで、隣の岩との距離感がわかる。彼が乗っているのが隣の岩。まだ当時はこんなに離れていたのだ。
 
 シロブチハタのおかげで、2本目のサンゴも撮っていた。
 
新一本サンゴ物語2019。

 成長速度に差はありつつも、ともにスクスク育っております。
 
 しかしこの成長速度の差が、その後の運命を左右する。
 
 さらに時は流れ、2013年7月には……
 
新一本サンゴ物語2019。

 円形に育とうとしている雰囲気は観られるものの、写真右の部分にへこみがある。
 
 物理的に損傷を被った気配はなし、なんでだろうと不思議に思っていたところ、お盆にお越しくださった巨匠コスゲさんが推察されていわく、
 
 「その下にある塊状サンゴが、スイーパー触手を出してミドリイシの成長を阻害してるんじゃないでしょうか」
 
新一本サンゴ物語2019。

 極めて慧眼。
 
 塊状サンゴにとっても日光は生命線だ。
 テーブル状のサンゴに頭上を覆われてしまえば、彼らの生きる道はない。
 
 そのため、他のサンゴに対する攻撃兵器であるスイーパー触手を夜な夜な伸ばして、頭上のサンゴの成長を阻害しなければならない。
 
 種類は違うけれど、なぜだかよりによってすぐ隣にいるシライトイソギンチャクの触手が接触しないよう、昼間から攻撃的になっていたミズタマサンゴが伸ばしているものがスイーパー触手。
 
新一本サンゴ物語2019。

 しかしそんな奮闘虚しく、塊状サンゴは後年死を迎えてしまった。
 
 台風その他で砂が押し寄せ、新一本サンゴの土台部分がかなり埋まってしまったのだ。
 
 この塊状サンゴの死がスイッチになったのか、新一本サンゴは進撃速度を速めていく。
 
 その前に、この2013年7月時点での、隣の岩との距離を確認しておこう。
 
新一本サンゴ物語2019。

 翌2014年8月の新一本サンゴは、けっこうにぎやかだった。
 
新一本サンゴ物語2019。

 スカテンチビなどの小魚がたくさんいるものだから、カスミアジ&マルクチヒメジ連合軍がひっきりなしに襲い掛かっていた。
 
新一本サンゴ物語2019。

 そこにちゃっかり写りこむ2本目サンゴ、健在。
 
 ここまで、当初の覚悟というか諦観とは裏腹に、スクスク順調に育ってきた新一本サンゴ。
 
 しかしその翌年、2015年には、ある試練が待ち構えていた。
 
 それはゴールデンウィーク中のことだった。
 
 成長著しい新一本サンゴをご覧いただこうと、5メートルくらい手前から
 
 「冬を越してさらに成長しました!」
 
 とボードに書いてゲストにお見せしようとしたら………  
 
 なんてことだ、一本サンゴの端が4分の1ほど割られている!!
 
新一本サンゴ物語2019。

 バキバキッ!!
 
 これは翌月撮ったものなので損傷部位はかなり回復しているけれど、破壊直後と思われるGWに見たときは、ボロボロ感が半端ではなかった。
 
 成長してまた一段と大きくなりました!って言いたかったのに、小さくなっちゃったじゃん。  
 
 ……という問題ではない。  
 
 ダイバー、特にカメラ派の方々がサンゴに近づきすぎてカメラ器材がぶつかってサンゴを折ってしまったり、自らをコントロールできないビギナーダイバーさんがフィンで蹴ってしまって折れてしまったりすることもちょくちょくあるようながら、いくらなんでもダイバーがここまで砕いてしまうことはありえない。
 
 おそらくはアンカーか何か、故意ではないだろうけど洋上からの人為的な何かが原因であることは疑うべくもない。  
 
 もちろん、こんな水深にアンカーを放り込むダイビング業者などいないから、きっとまったく別方面のプレジャーボート(釣り)のなせるワザだろう。
 
 そんな悲劇に見舞われつつも、その5か月後には……
 
新一本サンゴ物語2019。

 いささか変な形になりつつも、しっかり成長していた(周辺に散っていたサンゴの欠片は、なぜだか10メートルほど離れた砂底に集められていた)。
 
 すでに勝敗は明らかな気がするものの、とりあえず2本目サンゴも元気。
 
新一本サンゴ物語2019。

 この年すでに、隣の岩までこれくらいになっていた。
 
新一本サンゴ物語2019。

 その9か月後、2016年6月になると……
 
新一本サンゴ物語2019。

 その4か月後、2016年10月には…
 
新一本サンゴ物語2019。

 この頃にはもはや、隣の岩が画面に入らないように新一本サンゴを撮るのは不可能になっていた。
 
 2017年9月には……
 
新一本サンゴ物語2019。

 到達。
 
 これまで健闘していた2本目サンゴは、この時すでに……
 
新一本サンゴ物語2019。

 完全に過去のヒトに。
 
 一方、先述の塊状サンゴとは別の群体は健在だ。
 
 新一本サンゴが妙に細長く成長しているのは、この塊状サンゴとの協定が締結されたからか?? 
 
 ここで少し細部に注目してみる。
 
 隣の岩との最前線、まずは2017年6月。
 
新一本サンゴ物語2019。

 隣の岩を覆う被覆状サンゴから顔(エラ)を出しているイバラカンザシたち。
 
 それが8月には……
 
新一本サンゴ物語2019。

 1つになっていた。
 
 11月にはまだ上からイバラカンザシを覗けていたけれど……
 
新一本サンゴ物語2019。

 12月にはかなりアヤシクなってきていた。
 
新一本サンゴ物語2019。

 そして翌2018年2月には……
 
新一本サンゴ物語2019。

 完全に陰になってしまった。
 
 横から見ると……
 
新一本サンゴ物語2019。

 イバラカンザシにしてみれば、せっかく海を見渡せるマンションを買ったのに、その後次々に高層マンションが建ってしまい、海のウの字も見えなくなってしまったかのような……。
 
 そんな周辺住民の事情などお構いなしに、どんどん成長を続ける新一本サンゴ、2018年10月には……
 
新一本サンゴ物語2019。

 まるで隣の岩を喰らおうとする別の生き物みたいになっていた。
 
 ほぼ真上から見るとこんな感じ。
 
新一本サンゴ物語2019。

 ここまででっかくなってしまうと、超絶ストロング台風の波の威力でやられてしまわないだろうかと逆に心配になってきた。
 
 でも今年も数々の台風を乗り切り、11月には……
 
新一本サンゴ物語2019。

 順調に生育中。

 しかも隣の岩との最前線部分に着地する新一本サンゴ!

新一本サンゴ物語2019。

 いつの間にか隣の岩を覆っていた被覆状のサンゴが衰退し(おそらく戦いに勝ったはず)、橋頭保を築くことができたのだろう。

 ここを基点にして着底し始めると、新一本サンゴは、元々の土台と隣の岩を繋ぐ「架け橋サンゴ」になるかもしれない…。 
 
 1、2年もすればオニヒトデに食われてしまうかも…と思いつつ注目し始めてから12年、当初はハナミノカサゴが1匹乗ったら一杯いっぱいだったものが、今では10匹乗ってもまだ余裕があるほどに。
 
 今後どこまで成長するやら、はたまたいきなりオニヒトデに食われるやら、先のことはわからないけれど、とにかくもう、新一本サンゴを振り返ることはあるまい。
 
 だって、これを書くのに何時間費やしたか……。
 
 だからなるべく避けていたんだけど、ついに手を出してしまった。
 
 それもこれも時化時化欠航欠航のおかげかも……。
 


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Posted by クロワッサン at 11:47│Comments(0)水納島の海
 
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