2022年05月17日
本棚とサンゴ。
2022年 5月16日(月) 雨雨雨
北東の風 時化模様
昨日と同じことを繰り返さなければならない。
えーと、今は5月、それも半ばですよね?
なんなんだこの寒さは…。
前日に比べれば風は随分弱まったものの、それでも連絡船を欠航させるには充分すぎるほど吹いていた。
雨はときおり小降りになる時間帯はあれど、結局止むことなくずーーーーーーっと降り続いていた。
風も雨も、まぁ梅雨だしそういうこともありますわね…と無理に納得することはできるけれど、この日の寒さときたらいささか常軌を逸していた。
沖縄気象台ではどうだか知らないけれど、GWを除く5月の個人的体感観測史上断トツの最低気温記録樹立だ。
まだ寒い日もあるだろうとわずかに残していた薄めのジジパッチを履いていてさえ、膝から下が痺れるほどに冷えきってしまう。
こりゃ足を温めねば…と布団にもぐりこんだら、2度と起き上がれないほどの寒さだ。
冬じゃん、これ。
気のせいなのかと室内の寒暖計を見てみたら、軽く20度を切っていた。
冬の厚着状態でこの気温ならさほどのことはないけれど、薄物オンリーではほとんど生死にかかわる低温状態ではないか。
常夏沖縄を信じて来沖していた観光客のなかには、寒さのあまり凍死した人もいたりして…。
ガマンできず、ついにシャカパンまで投入してしまった。
暖房すりゃいいじゃんってところながら、北海道じゃあるまいし、沖縄の5月で暖房ってアナタ…。
冬物を置いておくスペースがないから、衣替えの季節になるとシャカパンなど本格的冬物は秘密基地に配置換えになるのだけれど、まだこういう日もあるだろうと島に残しておいてくれたオタマサ、グッジョブ。
遅めの午後に小降りになった時間帯があったからかろうじて散歩はできたけれど、こんな寒さ&降り止まぬ雨では屋外で何をすることもままならず、読書かPCシゴトしかやることがない。
そうだ、本といえば。
秘密基地で拵えた本棚、文庫本を前後2列に並べても奥側の背表紙の一部が見えるよう、その後奥側を高下駄方式で一段高くなるようにし、ともかくも文庫本を並べてみた。
一夜明けても崩壊することはなかったから、ともかくもマスオの棚にはならずにすんだ。
専門書や実用書はともかく、一度読んだ小説など、ヒトによってはすぐに古本屋へGO!ということもあるのだろう。
ワタシもこれはもう二度と読もうとしないだろうという自信があるものについては古本屋さん行きにするものの、名作映画と同じで、忘れた頃に、いや、忘れていなくても何度読んでも面白い本というものはある。
そういうものだけにすればもっともっとスッキリ片付くのだけれど、本棚にはもうひとつ重要な役割があるのだ。
それは、所有している本の背表紙をたまに目にすることによって、そのストーリーに関する脳内記憶回路が多少繋がり、少なくとも既読の本であるという記憶を維持しておけるということ。
既読の本をそうと気づかずに47ページくらいまで読んで、ようやく読んだことがあると気づいた(プロットはそっくりだなぁ…と思いながら読んではいた)…なんてことを四十路になる前からやらかしていたワタシなので、五十路半ばではもう、たまに背表紙を見ていないかぎり記憶回路を維持できる見込みはない。
そのうち読了してもなおそれが2度目だったことに気づかないようになるかもしれないものの、翻訳ものなど文庫本ですら1500円前後する現代ニッポンにおいて、同じ本を2度買う無駄はなんとしても避けたいところ。
で、このたび本棚を拵え、ようやく段ボールから写し終えた「とりあえず残しておきたい本」たちを見て、本棚作ってよかった…と改めて思ったことがあった。
先日書店で買おうかどうしようかと迷いつつも、とりあえず今読んでいる本を読了してからということにして結局買わなかった翻訳ものの本が、目の前の本棚に並んでいたのだ。
アブナイアブナイ…。
…でも背表紙を見ても、すでにまったくストーリーを思い出せないけど。
まったく話は変わる。
このところサンゴガニゲームがマイブームになっているせいで、いつになくサンゴガニの仲間たちを紹介する機会が多くなっているのだけれど、先日紹介したアラメサンゴガニについて、その後もヒマにまかせて考察してみた。
リンク先本文中でも触れているように、昔は眼を皿のようにして探していたオタマサがかろうじて1匹だけ観たことがあるだけだったのに、今春ちょこっと探してみただけですぐに2個体発見あいなったウラにはいったいなにがあるのだろうか。
昔の水納島でもけっこういたぞという声はその後どこからも上がってこないところをみると、きっと昔は少なかったのだろう。
では何が変わったのか。
その答えはどうやらこれだ。
ヘラジカハナヤサイサンゴ。
アラメサンゴガニが好んで住み着くサンゴでもある。
ちなみにこのリーフ上は、我々が第1ブイと呼び、本島の各サービスがポートサイドとかマーメイドとかヨスジなどと呼んでいるポイントのリーフだ。
昔のこの場所をご存知の方が眼にすれば、きっと目を疑うことだろう。
というのも、サンゴの白化と聞けば(古いダイバーの)誰もが思い起こす98年の大規模白化の直前は水納島のリーフも空前のサンゴ大繁栄状態になっていたのだけれど、水路よりも西側のリーフ上はさほどでもなく、ことに上の写真の場所はかつて、ところどころにヘラジカハナヤサイサンゴやハナヤサイサンゴが点在する程度の寂しい場所だったのだ。
オニヒトデ大発生によって本島周辺中のサンゴというサンゴが食い荒らされ、見るも無残な状態になったのは70年代のことながら、その後も長く慢性的にオニヒトデがたくさんいる状態が続いていたために、我々が学生の頃はようやく随所で造礁サンゴ類が成長軌道に乗ってきた、というところだった。
90年代半ばには成長著しくなっていて、白化直前には水納島のリーフ上でも絵に描いたようなサンゴ礁をいくらでも見られるようになっていたのだけれど、どうやらサンゴ復活の流れはリーフの西側から始まっていたようで、灯台近辺でサンゴが大繁茂している一方、東側はまだ発展途上も途上といった感じだった。
そこへ大規模白化。
ようやく復活なったリーフのサンゴたちは、見るも無残な姿に変わり果ててしまい、その復活には10年以上の歳月を要することとなってしまった。
一方、ハナヤサイサンゴ類は高水温には耐性があるらしく、もともと育っていたヘラジカハナヤサイサンゴたちもその多くが白化地獄を生き抜くことができた。
サンゴ礁とひとくちにいっても、どれも似たようなテーブルサンゴが延々と続く景色もあれば、多様なサンゴが入り混じっていることもある。
不思議なことに、水納島の南西側のリーフ上は↓このように一様にテーブルサンゴを主とするミドリイシ類が発達しているのに対し…
…北東側(砂地のポイント側)には先の写真のようにヘラジカハナヤサイサンゴがやけに目立ち、両者の景観は全然異なるといってもいい(※この南西側のリーフ上のサンゴは、残念ながら2016年の中規模白化でかなりやられてしまいました)。
これはおそらく、北風が卓越する冬、ストロングな南風が襲来する夏の台風といったサンゴにとっての「外圧」と生息場所が関係しているのだろう。
ともかくもそういうわけで、白化を生き延びたヘラジカハナヤサイサンゴたちはその後も大半がスクスク成長し、昔は数少なかった「オトナのナンヨウハギですら隠れられるサイズ」にまで育ったものまでボコボコ観られるようになっている。
そこまで住処が増えれば…。
そのサンゴを好んで住処にするアラメサンゴガニだって、流れ着いてから生き延びる率が高まろうというものだ。
いかがでしょう、このシロウト考え。
シロウト考えついでにもうひとつサンゴ話を。
サンゴが復活している水納島のリーフ上の主役のサンゴといえばミドリイシその他のイシサンゴ類、というのが定番なのだけど、どういうわけだか局所的に、八放サンゴ類、いわゆるソフトコーラルが卓越する場所がある。
白化によるサンゴの壊滅直後も南西側のソフトコーラル群は元気に繁茂し続けていて、当時は唯一の「お花畑」だった。
ということもあって、リーフ上にソフトコーラルが卓越するのは島の南西側の局所と認識していたところ、なぜだか島の北東側、水路を出てすぐ左のリーフ上にも、ソフトコーラルが優勢を誇っている区域がある。
我々が「がんばるオジサン」と呼んでいるところだ。
このテのキノコのようなウニョウニョしたソフトコーラルは他の場所でも観られはしても、ここのようにリーフエッジ付近でワシャッ…とたくさん群生しているところは、島の北東側のリーフでは他に無い(はず)。
なんでここだけこのようになるのだろう?
98年の白化直前の様子をまったく覚えていないから比較できないのだけれど、ここにだけソフトコーラルが群生する理由で思いつくことがひとつ。
冬の干潮時にここに潜ると、飛び切り冷たい水塊に当たることがある。
リーフ内でキンキンに冷やされた水がリーフの外に出てきているからなのは間違いなさそうながら、同じような時間帯で他の場所で感じる冷たさの体感3倍増しといったところだ。
ということはつまり、この場所にリーフの水がより多く出てきやすいようになっているってことではなかろうか。
すぐそばに航路もあるほか、なにかがどうにかしてここのリーフ上経由ということになるのかもしれない。
なので島の南西側でワーッとソフトコーラルたちが放卵したものが、幼生としてフラフラしている間にここに集まりやすい…
…ということはないですかね。
そういえば港の大規模浚渫をしていた昨年も、砂が混濁した白濁水は航路から出るだけではなく、防波堤を迂回してこのリーフ上からも外に出てきていたような気もする。
計測ブイを使って陸側からトランシットで観測し、各所に流速・流行計などを設置してデータを取れば、ちょっとした卒論くらいにはなりそうだ。
ホントに調査を実施てしまって、予測とまったく異なる意味を持たない結果に終わったらゴメンナサイ。
いずれにせよ、こんな小さな島にもかかわらず、その周囲を囲むリーフ上の景観だけでも、これほどまでに異なる。
それが生物の多様性。
そのあたりのことを考えずに、とにかくサンゴを殖やせ、サンゴを殖やせ!って闇雲に移植しまくっても、ひょっとするとそこはその種類にとって適所ではないかもしれない。
大切なのはヒトの手でサンゴを殖やすことではなく、サンゴが成育する環境を損なわないこと。
行政にはサンゴの移植だなんだと目に見えてわかりやすいハデな事業に熱中する前に、水質悪化に起因すると思われるタチの悪い藻が海底に生えないよういするにはどうしたらいいのか、というようなことをまず考えていただきたいところだ。
それがひいてはサンゴを殖やすことになるはずなんだけど、お金にならないことに興味を持つヒトはそうそういない。
この連日の長雨で、本島の各沿岸はどうなっているのだろう。
海を赤く染める後押しをしながらサンゴを殖やせって言われてもなぁ…。
※沖縄県赤土等防止条例などというものは工事をするためにあるお題目なので、実際にはなんの役にも立っていないのが実情です。