2017年04月21日

与那覇の記。

2017年 4月20日(木) 曇りのち晴れ

南東の風 けっこう波あり 水温22度 
   
 沖縄本島北部の山をこれまでにいくつか登っている。

 山といってもせいぜい標高400メートル前後だから、あくまでも「いい運動」程度で済むからこそではある。

 でもそれらの山はたいてい海辺にそびえていて、なおかつ石灰岩主体の山だから、山頂付近になると土壌が無いだけに木々が密生していることはなく、30分~1時間程度でたどり着く頂上からの眺望は抜群なのだ。
 
 ちょっとした運動で達成感を得て、そのあとのビールがまた美味い。

 ということをオフシーズンに何度かやってきた我々ながら、沖縄本島の最高峰は未踏のままになっている。

 バカと煙の親戚オタマサなら、何をさておいても最高峰に登るだろうというところながら、あいにくその最高峰は山原の真ん中にあって、なおかつ石灰岩露出系の山ではないため、頂上付近も原生林が密生。
 眺望はまったくといっていいほど楽しめないという。

 山頂からの眺めあってこその登頂&達成感だから、これまでずっと敬遠してきたのだった。

 とはいえ三浦雄一郎じゃあるまいし、この先いつまで山登りをすることができるだろうかということを考えると、そろそろこのあたりで沖縄本島最高峰を体験しておいたほうがいいかも。

 というわけで。

 「このオフのうちに行ってみよう与那覇岳!!」計画が発動されたのだった。
 
 沖縄の山々に興味を持ち始めたオタマサが、十数年前に購入した「沖縄県の山」というヤマケイの本でも、本島最高峰ということもあって最初に登場する与那覇岳。

 ただしチラッと読んでみるかぎりでは、これまでのように安易に臨むと迷子になってしまうかもしれない気配が漂っている。

 そのあたりも加味し、これまで以上にこの本を頼りにしつつ、まずは駐車場を目指す。

 まさか、その駐車場までがまず最初の難関だったとは…。

 我が家の場合、時刻表と登山に関してはリサーチ&ガイドはすべてオタマサが仕切る。
 というか助手席に座って地図を見ながらなわけだから、運転者的にはその指示通りに車を走らせることになる。

 ところが確信をもって告げるオタマサの指示通りに車を走らせてみても、もういい加減目的の場所に着いていてもいいはずなのに、行けども行けどもたどり着く気配が無い。

 それもそのはず、いつの間にか大国林道を走っていたのだ。

 沿道左側には定間隔で小さな距離表示板があって、そこにはしっかり「大国林道」と書かれてあるというのに、それをいっさい見ることなく、ただ前をのみ見つめて楽しんでいる助手席の女。

 ワタシが信じ切ってしまっていたら、危うく大宜味村の国道331号まで出てしまうところだった。

 しかしそんな頓珍漢なナビゲーターのおかげで、思わぬ怪我の功名も。

 与那覇岳は前述のとおり登山道からの眺めは楽しめそうにないのだけれど、この大国林道の路肩から、この若夏の季節の瑞々しいまでの新緑を眺望できる場所があったのだ。

 ここ!!

与那覇の記。


 ブロッコリーがズラリと並んでいるようとも評される、山原の原生林。

 こういう景色は実は本部町内の伊豆味の道を通っていてもフツーに観られる。
 ところがこれまで20有余年、ただただフツーに眺めてきただけで一度も写真を撮ったことがないことに最近気づき、是非撮っておきたいと思いながらもまたいつもの年のようにこのまま夏になってしまうところだった。

 勢い余って大国林道に乗り入れてしまったおかげで、この新緑の季節にこういう景色に出会えてよかったよかった。

 また、ここからさらに先へ進んだところでは、軽トラの荷台に山のように積んだペットボトルや水缶に、湧水を汲んでいる年配のご夫婦に出会った。

与那覇の記。


 ここから少し山中に入ったところに細流だか湧水があるそうで、そこからパイプを引いてここで水を汲めるようにされているようだ。

与那覇の記。


 付近沿線にはここのほかに水汲み場が何ヵ所かあるけれど、ここが一番パイプが太いから早く汲めるのだとか。

 そのまま飲んだほうが美味しいけど、念のために沸騰させてから利用しているとおっしゃるご夫婦。

 聞けば、この大国林道ができたことによってこの水を利用できるようになったそうだ。
 
 大国林道といえば、自然保護の観点からも経済的な観点からも、百害あって一利あるくらいのほとんど無用の長物的に酷評されまくりつつ完成した林道なんだけど、なにげにこうして近隣住民のみなさんの役に立っているらしい。

 海辺で暮らす我々にはあまり馴染みが無い、山の暮らしの姿があった。

 作業中にもかかわらず、味見してみたい我々のために手を休めてくださったお2人に感謝感謝。

 …と、思いがけず面白い体験もできたので、ナビゲーターオタマサの頓珍漢ぶりも、けっして無駄ではなかった。

 大国林道からのリカバリーを果たし、本来車を停めるべき場所に車を停めて、いよいよ与那覇岳に侵入する。

与那覇の記。


 ちなみにここが登山道入り口なのではなく、あくまでも駐車場スペースで、ここから30分ほど歩いてようやく登山道入り口に達する、と我々の参考書「沖縄県の山」で紹介されている。

 立派な「やんばる国立公園」の看板といい、傍らにあった↓こういう看板といい、

与那覇の記。


 ここに至るまでの道沿いにもあった↓こういう看板といい、

与那覇の記。


 なんだか至れり尽くせりのようで、これだったら山頂までのルートもきっと楽勝に違いない。

 ……と安心しきっていたのだけれど。

 ここから30分ほどでたどり着くはずの「登山道入り口」まで、まさか2時間もかかってしまうとは!!

 いや、出だしこそ快調だったのだ。

 真下から眺めるヘゴは美しいし、

与那覇の記。


 マイナスイオン放ちまくりの新緑も生命の力に溢れている。

与那覇の記。


 そこかしこから聴こえてくる鳥のさえずり、ひょっとするとノグチゲラのドラミングかもしれない低音連続音、渓流の水音……

 そんな山原の大自然に抱かれながら歩く道のりは、気持ちよさこそあれ苦労のくの字もないはずだった。

 ところが、随所に微妙な分かれ道があるというのに、そのどこにも「登山道入り口はこちら」的な標識ひとつない。

 たとえばここ。

与那覇の記。


 登山道入り口までのルート的には、非常に重要な分岐点だ。

 カメラを構えているワタシの側から歩いてきてここにたどり着くんだけど、右に曲がると下り道。そして特にこちらという標識があるわけでもない。

 だったらフツーにまっすぐ行くでしょう?

 その先はこんな感じの道。

与那覇の記。


 水もチョロチョロ流れているし、なんだか沢筋っぽいね、なんていいつつ、そこらじゅうに歩いているシリケンイモリを踏まないよう気をつけながらも、ルートはこれで間違いなしと確信を持って登っていたところ、さらにその先にも分岐点、さらに分岐点、分岐点…………

 なんか、ここ違うんじゃね??

 頼りにしている略図と見比べて明らかに違うと分かれば分岐点に戻り、また違ったら戻り、というのを繰り返し、最終的に「与那覇岳雨量観測所」という施設に出くわすに至り、これはどうやらかなり根本的なところで間違っていたんじゃなかろうか、ということにようやく気がついたのだった。

 ここはもう手近で誤差修正をしようとせず、大元の大元までリセットしたほうが早いかも。
 
 そしてようやく、先の写真の分岐点まで戻ってきた次第。

 最初にここを通った時は、頼りにしている略図でいうところの「旧大国林道へと降りる道なので注意」という道なのだろうと判断してしまっていたのだけれど、実は正しいルートこそがこの道だったのだ。

 いや、わかりませんて、フツー。

 わからないならわからないまでも、けっこうアテにしていたものもあった。

 これ。

与那覇の記。


 道々のところどころに、赤い布きれが木にくくりつけてあるのだ。
 迷った先にこのような目印があったら、「あ、この道であってるのね」って安心するじゃないですか。

 ところがこの赤い布きれ、どの道に行ってもそこらじゅうにあって、ルートの意味ではまったくなかったのだ。
 これはルートの目印ではなく、↓これの目印だったのである。

与那覇の記。


 いつぞや紹介したことがある、マングースの捕獲器。

 環境省だかなんだかの職員が、地道に不断の努力を続けておられるのであろう。赤い布きれはその作業のために、捕獲器の存在を示すための目印だったのだ。

 どうりで四方八方の道に人が踏み固めたルートがあるわけだ。

 この赤い布きれに騙されたおかげで(?)、本来30分で済むところを2時間かけ、ようやく「登山道入り口」に到着。

与那覇の記。


 ここで「←与那覇岳」って標識を掲げてくれるのだったら、あの分岐点でも明確に示してくれたっていいじゃん……。

 とにもかくにもようやく登山道入り口。
 なんだかもう、この時点で達成感が……。

 というか、ホントだったら全行程2時間のルートということだから、フツーに歩いていればもう今頃は登頂を果たしてランチに思いをはせているところだったはず。

 それを考えると徒労感が湧いてくるものの、ここから山頂までは、サルでもわかる一本道だという。
 30分ほどで到着するというから、2時間歩いた疲労はあれど、いざ行かん!という気にもなった。

 さぁスタート!

与那覇の記。


 この最初の部分こそ2メートルほどの崖状の岩場ながら、あとは緩やかな登り道。

 登山道入り口までの道とは違って、人1人がようやく通れる程度の隘路が続く。

与那覇の記。


 なるほど、道沿いはずっとこのように木々が生い茂っているから、眺望など楽しめようはずはない。

 ……そして30分後。

 我々はまたロストマイウェイになっていたのだった。

 いや、ひょっとすると道は合っていたのかもしれない。

 けれど時間的にあと少しで山頂だろうというところで道は急に下りになり、少し降りてみたものの道はさらにどんどん下っていくように見える。

 これが最初の迷い道クネクネだったら、物は試しで下るだけ下ってみようと思ったろうけれど、なにしろここに至るまでこの登山道のあやふやさを身に染みて味わっていることもあって、このまま下っていったら取り返しのつかないことになりそうな気配も濃厚だった。

 ひょっとしたらここに至るまでに、また見落とした道があったのかも。

 という危惧もあったから、これ以上先へ進むことはやめ、ついに引き返すことにしたのであった。

 引き返してはみたものの、やはりずっと1本道だったようで、結局登山道入り口まで戻って来てしまった。

 うーむ………山頂はあの下り坂の先だったのか。

 あの先へ行ってみなかったことにはやや悔いが残るとはいえ、それにしても、である。

 登山道入り口までの岐路といい、登山道中の誰もがきっと不安になるであろう場所といい、道順案内の小さな標識ひとつとしてない徹底ぶりがものすごい。

 いや、もちろん自然のなかにそういった標識を設けるのはいかがなものか、という話なら理解もできる。
 手つかずのまま維持されているのであれば、我々だって駄々をこねたりはしない。
 でも駐車場から登山道入り口から、登山道として懇切丁寧っぽい案内板を設けておきながら、肝心の登山道中のこのそっけなさはなぜ??

 ひょっとして。

 理由はこれか??

与那覇の記。


 登山客の遭難リスクをかけてまで「要ガイド」を徹底したいのか、国頭村役場経済課。

 ……とまぁ、下調べの足りなさゆえの失態をヒトのせいにしつつ、標高500メートルくらいまでは行っていたはずなんだけど、山頂到達という達成感がないままの下山と相成ったのだった。

 なんだかエベレスト山頂まであと50メートル、というところで撤退を余儀なくされた登山家のような気分……。
 
 うーむ……もしかするとこの日は山頂も臨時休業だったのかも?
 
 というわけで山頂にはたどり着けなかったものの、これまで登ったことがある北部の石灰岩主体の山とは違う、山原の原生林そのままの世界はそれなりに堪能することができた。
 なにしろ標高500メートルほどといえば、普段暮らしている場所の100倍の高さである。

 前日が雨降りだったこともあるのだろう、やたらとたくさんいたシリケンイモリのほか、さまざまな種類のシダ類が印象的な山道でいろんな生き物に出会ったのだけれど、アカヒゲのメスをキチンと観たのは初めてかも。

与那覇の記。


 何かの虫をくわえていた。

 虫といえば、さすがにヤンバルテナガコガネというわけにはいかないけれど、初めて目にしたものが2種類。

 ひとつはこちらの甲虫。

与那覇の記。


 1センチほどのきれいな甲虫。
 
 そしてもうひとつは……

与那覇の記。


 背中のトゲがやけに戦闘的なイモムシ。
 4センチほどで、一生懸命葉っぱを食べていた。

 このイモムシ、顔がなんだか悪魔のよう。

与那覇の記。


 帰宅後例のイモムシハンドブックで調べてみたところ、この悪魔くん、なんとイシガケチョウの幼虫だった。

 あいにくイシガケチョウは食草の関係か水納島ではあまり観られないけど、本島ではチラホラ目にするチョウで、地味にシブく美しい柄をしている。

 その幼虫がこんな姿だったとはなぁ…。

 <そんな虫たちに気を取られているから道を間違えるんじゃないの?

 ……そうかもしれない。

 頂上は残念ながら臨時休業だったけれど、これまで登った山の中では最も生物相が豊富で、いかにも「山原の森」な世界は、普段海に囲まれて暮らしている我々にはとっても新鮮だった。

 そういう意味では、多少の筋肉痛も無駄ではなかった。

 ……と信じたい。


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Posted by クロワッサン at 06:41│Comments(4)日々の徒然観光
この記事へのコメント
沖縄県の最高峰は、石垣島の「於茂登岳」の525.8mです。沖縄島の最高峰の「与那覇岳」は、503mとなっているけれど、山頂らしき小さな下草の無いサークルに三角点があり、そこは498mで実は山頂ではないという不思議な場所。
サークルには五本の道が集まっており、いったんサークルに入ると、自分がどの道から来たのかも解らなくなり、引き返すことさえも困難となります。そのうち1本は女性用の「お花摘み」の場所です。つまり山の言葉で「トイレ」。おそらく登山利用者の自主的ルールにより表示がないものと思われます。
国頭村経済課でなくても、「ガイドなしには絶対に登らないでください」と、ガイド付きを、おススメいたします。
国頭では韓国語を話すガイド方の活動の様子を、最近はあちこちで感じるようになりましたよ。
Posted by 屋我地 at 2017年04月21日 10:20
ですから、ちゃんと本文中で「本島最高峰」と書いてるじゃないですか(笑)。

たしかにわかりづらい道ですが、
十数年前の例の本(沖縄山岳会会員の方々著)では、
要ガイドなんて話は一言もふれられてないところをみると、
十数年前に比べ、
ヒトはより一層バカになっちゃったってことなんでしょうか‥‥。

関係ないですけど、
シーサイドドライブインの店舗内価格が若干値上がりし、
あのスープが250円になってました。
Posted by クロワッサン at 2017年04月21日 11:04
京都の北部美山の「芦生の森」もガイドナシでは入山禁止になったようですね
なんでも主要の林道のフェンスの鍵はガイドさんが開けてくれるそうな・・・
でも京大の広大な敷地
色々なところから入れるようですが
絶対ダメですからねwww
Posted by がんばるオジサン! at 2017年04月21日 14:08
おりからの登山ブーム、
そして分母が増えることで目立ち始めるオロカな方々(マナーの悪さも含め)……
ということなんでしょうかね……。
Posted by クロワッサンクロワッサン at 2017年04月22日 06:33
 
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